今回は近畿地方の郷土料理をご紹介します。
【郷土料理とは】
郷土料理は各地域の気候・風土・産物・歴史などの影響を受け、独自に発展を遂げた料理です。
縦に長い我が国では地域性豊かな郷土料理がたくさんあります。
隣接する土地同士でも知らない料理があるかもしれません。
全ては難しいですが、色々ご紹介できればと思います。
※ご当地グルメ的なものは含んでいません。
【近畿地方の郷土料理の特徴】
近畿地方は本州中央より少し西に位置し、畿内とその周辺の土地を含めた呼称です。
一般的に大阪府・京都府・兵庫県・奈良県・和歌山県・滋賀県・三重県の2府5県からなる地域です。
諸説ありますが、その昔天皇が住まわれていた都(京)があった場所を「畿内(きない・うちつくに・きだい等)」と呼んでおり、その近隣の国々を示す呼び名として「近畿」となったとする説が有力です。
近畿地方は、日本最大の湖である琵琶湖、大阪平野等のある中央低地をはじめ、紀伊山地、丹波高地、リアス式海岸等、多種多様な地形により林業が盛んな地域、農業が盛んな地域、養殖業が盛んな地域等があり、色々な郷土料理を見る事が出来ます。
【代表的な郷土料理】
<大阪府>
☆船場汁
大阪の問屋街、船場が発祥といわれる汁物で、身をとった後の鯖の骨やアラと大根を使って作ります。
本来は塩鯖の骨やアラで作っていたようですが、現在は生の鯖で作る事も多いです。
昆布出汁に下処理をした鯖の骨やアラ・大根を入れ、塩や淡口醤油で味を調えます。
生臭さも無く、とても美味しい汁物です。
☆寿司
江戸の握り寿司に対し、近畿地方は箱や木枠で押す寿司が多く、大阪は鯖を使った「バッテラ」や穴子・エビ・鯛などを使った「箱寿司」が有名です。
バッテラの語源は、ポルトガル語の「ボート(小舟)」を指す「バッテイラ」。
バッテラが考案された当初はコノシロという魚で作っていましたが、だんだんと獲れなくなり、鯖で作られるようになりました。
箱寿司は製作に1~2日を要する手間のかかるものですが、上に乗せる具材が織りなす様は「芸術作品」と言われるほど美しいものです。
☆かやくご飯
大阪では炊き込みご飯の事を「かやくご飯」といい、「加薬」という字を当てます。
加薬は漢方の用語で、「薬の効果を高めるために加える」といった意味があり、米に様々な食材を加える事が加薬と似ているのでこの名が付いたとする説があります。
具材としては油揚げ・椎茸・人参・ごぼう・コンニャク・鶏肉が主で、すべて米と馴染むよう細かく切り、素材の色や香りを際立たせる淡口しょうゆで仕上げます。
江戸時代、大阪は「天下の台所」と呼ばれ、様々な食材が集まる土地であったので、日本各地の美味しい物が詰まったご飯となったのでしょう。
<京都府>
☆精進料理
寺院の多い京都では、殺生を禁ずる仏教の教えに基づき、肉や魚類を断ち、野菜やキノコ・豆・穀類等で料理する精進料理が発展しました。
食卓で湯葉を引き上げていただく「引上げ湯葉」や「豆腐料理」「生麩」など、素朴で味わい深い料理です。
☆漬物
都が置かれ寺院の多い京都では様々な料理が発展しました。
漬物もその中のひとつで、聖護院かぶという大きなかぶを使った「千枚漬」やかぶの仲間の「すぐき」を使った「すぐき漬」、茄子・赤紫蘇・塩(みょうが・しょうがを入れる場合も)で作る「しば漬」は京都三大漬物と言わ、全国的にも有名です。
☆丹後ばら寿司
丹後地方に伝わる寿司で、鯖をおぼろにし、干瓢・筍・椎茸・かまぼこ・生姜・錦糸卵などと一緒に「まつぶた」と呼ばれる長方形の箱に酢飯と共に重ねて作ります。
慶事の時やお祭りといった人が集まるお祝い事の際に作られ、家庭ごとの味があります。
<兵庫県>
☆出石皿蕎麦
「挽きたて・打ち立て・茹でたて」の「三たて」が信条の出石皿蕎麦は江戸時代、藩主の国替えに伴い、信州上田より蕎麦職人を連れてきたのが始まりとされています。
薬味には、とろろ・ 卵・長ねぎ・大根おろし・わさび等を用意するのが一般的です。
出石皿蕎麦はその名の通り、出石焼きの小皿に蕎麦をのせて供されます。
☆明石の海の幸
餌が豊富な明石海峡は新鮮な海の幸の宝庫。
鯛をはじめ、蛸や鱧、穴子など、様々な魚が獲れます。
それらを使った料理は昔からこの地方でよく食べられ、蛸飯や鯛飯・鱧すきなど、美味しさに定評のある料理が目白押しです。
☆イカナゴのくぎ煮
玉筋魚(いかなご)は春先に兵庫県辺りに回遊してくる細長い魚です。
イカナゴの稚魚を醤油ダレで甘辛く煮た佃煮の一種「くぎ煮」は、煮上がった様が曲がった釘のように見える事から名付けられました。
兵庫に春の訪れを感じさせる郷土料理です。
<奈良県>
☆大和の茶がゆ
ほうじ茶や番茶の煮出し汁を使い、炊いたお粥。
奈良時代、お茶は飲み物としてより薬としての意味合いが強く、その茶で炊いたお粥を寺院で食べたのが始まりのようです。
粘りのある通常のお粥と違いサラッとして粘り気がないのが茶がゆの特徴です。
☆柿の葉寿司
塩鯖を使い握った寿司を渋柿の葉で包んだ料理。
海に面していない奈良県では新鮮な生の鯖を手に入れる事が難しかったため、塩で処理した鯖を使っていたようです。
また、柿の葉が使われた理由として、奈良には柿の木が多かった事・柿の葉はタンニンを多く含むため保存に適していたという事があげられます。
現在では様々な具を用いた柿の葉寿司が考案されています。
<和歌山県>
☆めはり寿司
山仕事の際に持って行く弁当として作られたもので、高菜の漬物を巻いたおにぎり状の料理。
目を張る位口を開いて食べた事から名が付いたとされます。
現在は食べやすいように小さいサイズも出回っていますが、現地に行った際はぜひ昔ながらの大きなめはり寿司を食べてみて下さい。
☆胡麻豆腐
真言宗・高野山に伝わる精進料理で、白胡麻を油が出るまでよくすり潰し、水や昆布出汁・葛粉と一緒に火にかけて練り上げ、型に流して冷やし固め、ワサビ、出汁で割った醤油ダレなどで頂く料理です。
モッチリつるんとした独特の食感がたまらない一品です。
<滋賀県>
☆鮒料理
琵琶湖で獲れる鮒を使った郷土料理がたくさんある滋賀県。
「なれ寿司」をはじめ、鮒の身に鮒の卵をまぶし辛子酢味噌でいただくめはり寿司や鮒の腹に味噌を詰めて蒸した「鮒の味噌蒸し」等があります。
☆しじみご飯
琵琶湖や瀬田川で獲れる、瀬田シジミを使った炊き込みご飯。
しじみの茹で汁で炊くので、ご飯にもしじみのうま味が染みています。
<三重県>
☆手捏ね寿司
新鮮な鰹等をおろしてそぎ切りにし、砂糖を少量加えた醤油に漬け、すし飯と混ぜた料理。
もとは漁師料理で、忙しく立ち回る船上の仕事の合間にご飯と獲れたての魚を切り身にした物を醤油で味付けし、手で捏ねて作ったのが始まりとされ、名前の由来もここから来たようです。
☆さんまの姿寿司
頭と尾を付けた状態で腹開きしたさんまに塩をして酢でしめ、甘酢に漬けにします。
酢飯をさんまの形に細長くして開いた部分に詰め、押し寿司にしたのがさんま寿司です。
柑橘の汁で作る柑橘酢を使い、さんまの臭みを抑えます。
細長い形状から、鉄砲寿司とも呼ばれています。
いかがでしたか。
今回ご紹介したのはほんの一握りです。
まだまだ隠れた郷土料理もあると思いますので、またご紹介します。
Text by さゆり/食育インストラクター