朝食やおやつなど、いろいろな場面で登場するバナナ。
比較的安価でいつでも購入できる果物ですが、日本では栽培可能な地域が限られていて、流通しているのはほとんどが輸入品です。
今回はそんなバナナを取り巻く環境についてお話します。
【バナナを育てようと思ったら?】
食べ終わった果物の種をなんとなく土に埋めたら、本当に芽が出てきた!?
果物の多くは種を持っているので、そんな経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。
しかしバナナの場合は話が変わります。
なぜなら、私たちが果物として食べているバナナは種の無い(発芽しない)品種だからです。
私たちのよく知るバナナは、突然変異で生まれた種の無い苗を株分けして増やしているので、バナナを土に埋めたからと言って、そこから発芽して成長することはありません。
同じ株元から分けられたバナナはクローンのようなものなので、至適環境であれば味や大きさにバラつきなく、生産のコストが抑えられるメリットがあります。
しかし、それはどの苗も遺伝子が似通っているので、病気になったときに一斉に広まりやすいという弱点も持つのです。
【パナマ病とバナナの戦い】
特定の病気に著しく弱いという弱点を持つバナナ。
そして、株分けで増やしたもうひとつの弱点が、新しい品種改良が難しいことです。
品種改良は違う品種同士を受粉させて新しい品種を生み出しますが、種のできないバナナでは別の品種と受粉させて新しい品種を生み出すことは難しいのです。
ほかの作物と比べて流行した病気に耐性のある品種ができるまで時間がかかります。
そのため、歴史では1950~60年代に発生したパナマ病の大流行により、当時主流だった「グロス・ミシェル」というバナナの品種に壊滅的な被害が出たと記録されています。
また、2010年代後半から現在にかけて、新パナマ病が流行しています。
現在主流の品種であるキャベンディッシュは従来のパナマ病に耐性を持っていますが、新パナマ病には弱いので、バナナ生産国の多くで被害が報告されています。
バナナは現在の日本では価格が安定し、通年手に入ります。
しかし、それは生産国が殺菌や封じ込めなどの対策を行っているからこそ。
それでもパナマ病の根絶には至らず、少しずつ被害範囲が拡大しているようです。
現在は新パナマ病への耐性株の開発も進められていますが、生産・流通にはまだ時間がかかる段階です。
いつでも食べられる果物と思いがちですが、その背景には、途方もない努力があるのですね。
【バナナと栄養】
日本国内で生産がほとんど行われていなくても、バナナと言えば一般的な果物のひとつ。
甘くて濃厚な味わいがおいしいのはもちろん、栄養価も高いのだから人気なのもうなずけます。
バナナはエネルギー源となる糖質が多いうえに、食物繊維も豊富です。
このことから血糖値の急上昇が抑えられ、食後の眠気が軽減されたり、生活習慣病の予防にも役立ちます。
また、代謝に欠かせないビタミンB群やカリウムなどのミネラルを含むので、朝食やおやつなどで食べるにはちょうどよい食品といえます。
常温保存ができ(バナナは低温障害が起こりやすいので冷蔵はむしろNGです)、生で食べられるので調理の手間が無い、といった手軽さも魅力的ですね。
これだけ普及し、多くの人に愛されているバナナ。
それを取り巻く環境は2024年1月の時点でも不安定な状況にあります。
バナナを召し上がるときは、新パナマ病の流行状況などについてもチェックしてみるとよいかもしれませんね。
Text by はむこ/食育インストラクター