同じ国の中であっても、地域ごとに食文化が異なることは珍しくありません。
時代ごとに統治する藩が変わった地域では、一風変わった郷土料理が生まれることもあります。
今回は日本の郷土料理から、青森県の「せんべい汁」についてのお話です。
【せんべい入り汁!?】
せんべい汁、読んで字のごとく、せんべいの入った汁物です。
といっても、ここに入るのはもち米で作ったせんべいではなく、小麦粉から作った南部せんべいです。
南部せんべいになじみのない方は、縁日のソースを塗る薄焼きせんべいを思い浮かべていただくと近いかもしれません。
なんとなく、麩のような味が想像できますね。
現在お菓子として販売されている南部せんべいは、ゴマやさきイカなどいろいろなトッピングをのせて焼き上げていますが、せんべい汁に入れるのはトッピングのない、せんべい汁専用タイプ。
お麩よりももちっとした食感になり、食べ応えのある汁物になるのです!
せんべい汁の味つけは、しょうゆをベースにすることが多いようです。
具材には決まりが無く、鶏肉や野菜を一緒に煮込んで、最後に汁物用の南部せんべいを割り入れて頂くのが基本的な作り方です。
お米が貴重だった時代、せんべい汁は主食と汁物の両方の役割を担っていたのかもしれませんね。
【東北地方で南部?】
さて、この南部せんべい、東北地方の名産品なのに、「南」の字がついているのは少し不思議に思いませんか?
南部せんべいの発祥については諸説ありますが、南北朝時代の天皇が青森県の南部町近郊を訪れた際、食べものに困ったところを家臣が地元で採れたごまやそば粉を練って焼いたものを献上した。
これがのちの南部せんべいの原型となったとする説が有力視されています。
また、江戸時代まで岩手県の中部から北部と青森県の東部にかけては、盛岡藩が治めていました。
この藩主が南部氏だったため、南部藩とも呼ばれていたのです。
そのため、この地域で食べられていた郷土料理に、藩の名前から南部とつけたとも考えられています。
確かに、2021年現在、南部せんべいは青森・岩手県どちらでも郷土のお土産として販売しています。
せんべい汁を食べていたのはそのなかでも一部の地域で、現代では青森県八戸市を中心に、せんべい汁のPRが盛んに行われています。
八戸市は青森・岩手県の県庁所在地である青森市・盛岡市から少し外れた、太平洋側に位置しています。
「県の特産品としてPRされているものの、せんべい汁は食べたことがない」という県民の方がいらっしゃるのも不思議なことではないのですね。
【せんべい汁】
<材料> 調理時間:35分
南部せんべい(せんべい汁用)・・4枚
鶏もも肉・・1枚
サラダ油・・大さじ1
大根・・5㎝
にんじん・・1/3本
ごぼう・・1/4本
長ねぎ・・1/2本
A出汁・・3カップ
Aしょうゆ・・大さじ2
A酒・・大さじ2
A塩・・小さじ1/3~1/2
<作り方>
- 鶏もも肉はひと口大に切る。
- 大根はいちょう切りに、にんじん・ごぼうは厚めのささがきにする。
長ねぎはななめ薄切りにする - 鍋にサラダ油を入れて熱し、(1)を肉の色が変わるまで炒める。
(2)の大根・にんじん・ごぼうを入れ、全体に油が回ったらAを入れ、ふたをして15~20分煮る。 - アクが出てきたら除き、長ねぎ・大きめに割った南部せんべいを入れ、さっと煮る。
<ポイント>
具材は手に入りやすいものにしています。
季節の野菜やきのこなど、お好みで加えてください。
せんべい汁は大きな鍋でたくさん作って食べる、昔ながらの家庭の味のひとつといってよいでしょう。
食べるための作法やきまりが無く、作りやすい料理です。
それぞれのアレンジを加えて楽しんでみてはいかがでしょう?
Text byはむこ/食育インストラクター