旬が2回!? 江戸っ子が愛した鰹のお話

まだまだ暑い日は続きますが、それでも、秋になると少しずつ野菜や魚の品ぞろえが変わってきます。
特に、秋から冬にかけては、脂ののった魚が増えるので、心待ちにしている方もいるのでは?
今回はそんな魚から、鰹(かつお)についてのお話です。

【江戸っ子たちの憧れの魚】

「初鰹は女房を質に入れてでも食え」
粋な物事を愛する江戸っ子の気質を表すときに挙げられる、有名な慣用句です。
女房を質に入れてでも、とは「なにがなんでも」や「なりふりかまわず」というようなニュアンスで、現代なら大変問題視されそうな言葉ですが、もとは江戸時代に詠まれた川柳が由来なのだそうです。
旬の時期、スーパーの鮮魚売り場に行けば鰹のお刺身が安価で手に入る現代と違い、江戸時代の初鰹はとんでもない高級食品でした。
その価格は今でいうと1尾あたり数十万円ほどになることもあるとか!
一般市民に手が届く存在ではなかったのです。
そのため、もととなった川柳の示すところは「粋な初鰹を食べたいが、大事な家族を質にでも入れなければ食べられないような高級品だ(から食べられない)」が近いようです(※諸説あり)
なんにせよ、江戸の人が奥さんを蔑ろにして鰹を食べていた、ということではなさそうですね。


【どちらがお好き?】

鰹の旬は年に二回あり、いずれも鰹が黒潮に乗って日本近海にやってくる時期となります。
春から初夏にかけてやってくる初鰹は、北に向かって行く途中の鰹です。
そこで栄養を蓄え、肥え太った状態で南下してくるのが、秋の戻り鰹です。
魚の旬と聞くと、どうしても脂ののった状態の魚をイメージしがちですが、江戸っ子が好んだのは初鰹でした。
季節を先取りするのが粋だとする考え方のほか、江戸時代はいわゆるトロなどの脂ののった部位があまり上質だと思われていなかったことなども理由なのかもしれません。
確かに、脂が多い部位は酸化しやすく風味が落ちるのが早いので、冷蔵技術の無い時代では、食卓に上がるころにはおいしくなくなっていたのが想像できますね。

現代では脂ののった戻り鰹のとろけるような口あたりも好まれています。
また、魚の脂に含まれるDHAやIPA(EPA)などの不飽和脂肪酸は、血栓予防に効果的だとされ、健康効果の高い魚としても数えられています。
初鰹は不飽和脂肪酸こそ少ないですが、その分エネルギーが低く、たくさん食べるべきメリットもあります。
鉄やビタミンB12などを含む赤身肉なので、貧血予防に役立ちます。
特に鉄は不足すると貧血以外にもさまざまな不調を招くので、しっかり補給しておきたい栄養素です。

どちらの鰹も体にとってよい効果があるので、旬のおいしい時期にはぜひ食べておきたい魚ですね。
ちなみに、鰹は回遊魚なので、旬の時期以外でも日本近海を泳いでいることがあります。
初鰹・戻り鰹の時期はたくさん獲れる時期ですが、旬の時期以外でも鮮度のよい鰹が出回ることもあるのは、覚えておいて損は無い知識ですね。

【たたきと鰹】

脂ののった戻り鰹は、少し炙って脂を落とす、鰹のたたきにして食べるのに向いているとされています。
この「たたき」という調理法は、鮮度の落ちた鰹をおいしく食べるために、漁師さんが知恵を絞って生み出した漁師飯のひとつだったともいわれています。
沖合で釣った戻り鰹は、陸に戻るまでに鮮度が落ちていたのかもしれませんね。
時代が変わって現代では、鰹のたたきは最もポピュラーな鰹料理となりました。
太平洋沿岸の漁港近くでは、それぞれ地元で採れる旬の野菜や薬味と一緒に食べられていて地域性もうかがえます。(例えば、夏野菜の生産が盛んな高知県では、なすやみょうがと一緒に食べられています)
それぞれの県の特色を鰹のたたきを比べるのも面白いですよ☆

四季の移り変わりを感じさせる鰹は、日本の食文化に関わる大切な魚です。
おいしい戻り鰹に舌鼓を打ちながら、昔の日本に思いをはせ、芸術の秋を満喫するのもよいですね☆

Text byはむこ/食育インストラクター